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歩いてきた道

2008 Herbst -

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sherlock 07

モリアーティ.大好きなモリアーティ.なんて魅力的な.

最後の,モリアーティの笑み,の意味合いがわからなくて,つらつらと考えていた.


モリアーティとシャーロックは,互いに似ていると思っている.
似ているところはどこだろう.
頭の回転の良さ,プライドの高さ,日常に退屈してゲームをしたがっているところ.
社会生活をうまく送ることなんかに,なんの興味もないところ.

でも,私には,全然違うようにも見える.

1.
モリアーティは,大切なもの,守るべきものを持たない.
いつも,捨身なのだ.ただ続いていくだけの人生に退屈し切っている.
だから,自分の物語を完璧にする為に死ぬことを躊躇わない.
本当かフェイクか,社会からどうみられるか,なんてことも,
彼にとってはどうだっていいことだ.
大切なものがないからこそ,より日常に退屈してしまっているともいえる.


2.
さらに,モリアーティは,人心がどう動くものかよく知っている.
つまり,人間に旺盛な興味があるのだ.
そしてそれをゲームに利用することに,まったく抵抗がない.

221Bに訪れて,シャーロックに直接
ありもしないコンピューターキーの存在を話したのは驚きだった.
シャーロックはモリアーティに,最後の場面以外で嘘をつく余裕さえない.

人の心がどういうものかに関心がなく,うまく振舞えずに他人とぶつかってばかり,
のシャーロックとは全然違うのである.
シャーロックは(少なくとも以前は)他人に興味が薄く
(それは勿論,心がないということではない)
だからこそ,ゲームを解くのに関係のないところで他人に嘘をつく必要を感じていない(かった).


3.
モリアーティはゲームをしかける.
シャーロックはゲームを解く.
ある意味,モリアーティの方がクリエイティヴで,シャーロックは単にお膳立てされた謎を解いているだけ.
同じ頭の回転の速い設定のマイクロフトが,英国政府を機能させるという彼の定めた彼の物語を遂行しているのに比べても,
シャーロックは他人の掌の中で踊っているだけなのだ.

それは,シャーロックがまだ子供で,ぼんぼんだということでもある.

でも,やっと彼にも守りたいものができつつあるので,
これから何かが変わっていく,のかもしれない.
少なくとも,The Reichenbach Fallの最後で彼が自分の自殺偽装を選んだことは,
自分の意思でモリアーティの物語の結末を書き換えたということだ.
多分,彼の書き換えたかった物語にとって,ジョンへ嘘をつくことは必須だったのだろう.
それは,物語を紡ぎ出す,一世一代の嘘.

彼はモリアーティとは違って,死にたくないのだ.

前にシャーロックのところで,
モリアーティとの駆け引きはシャーロックが生き残ったことで勝った,
と書いたけれど,そう一概には言えないな,と思い直した.
命は長らえたけれど,一時的ではあるだろうが,シャーロックは大切な人たちとの繋がりを失った.
モリアーティからしてみれば,社会的名声を失って,大切な人たちも失って,
シャーロックの生きがいを全て奪われて,それでも生きていることの意味は理解不能だったかもしれない.
(実際,話が続いて欲しいから生きていてほしいけれど,私にもよくわからない.
 多分,ここのところのジョンとの生活がとても楽しくて,生きたくなって,
 生きていれば挽回のチャンスもある,と考えたのだろうか.)



こう考えてみると,モリアーティの方が純粋でドライで,振り切ったところがある.
sentimentは敗者の化学的反応で,
弱みを持たないモリアーティは,基本的にシャーロックを凌駕している.
だからこそ,シャーロックは,モリアーティに不安を感じていたんだろう.

けれど,最後,死ぬ直前,モリアーティはシャーロックと以下の会話を交わす.

Moriarty: Sherlock, your big brother and all the King's horses couldn't make me do a thing I didn't want to.
Sherlock: Yes, but I'm not my brother, remember? I am you. Prepared to do anything. Prepared to burn. Prepared to do what ordinary people won't do. You want me to shake hands with you in hell, I shall not disappoint you.
Moriarty: Nah. You talk big. Nah. You're ordinary. You're ordinary. You're on the side of the angels.
Sherlock: Oh, I may be on the side of the angels, but don't think for one second that I am one of them.
Moriarty: No. You're not. I see. You're not ordinary. No. You're me. You're me. Thank you. Sherlock Holmes. Thank you. Bless you. As long as I'm alive, you can save your friends. You've got a way out. Well good luck with that. 

シャーロックに,僕は君だ,どんなことでもするぞ,と言われて,
それまで凡人と罵っていたのに,突然思い直し,認めて,ありがとうとまで言う.

これがなんだかひっかかる.

勿論,自分の物語を完成させるために自殺する,その為にシャーロックを油断させるための演技だ,
と言ってしまうこともできるのだけれど,
それにしてはモリアーティの表情が複雑で豊かだ.

大体,これまでシャーロックは人を殺したことがないし,
なんでもするぞ,と言っても,火炙りにしたりはできないだろう,talk bigだ,
と思うのが普通だと思う.
それでも,相手を認めて,ありがとう,と言う.

その直前のシャーロックのセリフは,自分は天使じゃないぞ,だ.

牢獄にいる間,sherlockの名前を書きまくっていたこと,
マイクロフトの拷問に耐えてまでsherlockの半生を知りたがったこと,
(マイクロフトは,あいつはsherlockに執着している,と言っている)
どうも,子供の頃のカール・パワーズの事件以来の因縁であるらしいこと,
を考え合わせると,
実はモリアーティはsherlockに対して,長いこと
とても特別な気持ちを持っていたのではないかと思い至る.

人間観察をしっかりしているモリアーティのことだから,
シャーロックのこともしっかり理解していただろう.

同じくらい頭のいい,同じように人生に飽いている自分の分身.
世界でたった二人だけ.
僕がいるから,君が生きる.

そう思っていたのに,相手は段々自分の知らないものを手に入れ始める.
信頼できる友人,社会的名声.

いらいらする.
手に入らないなら,壊してしまいたい.

何度も繰り返される,I owe youだけど,
モリアーティはシャーロックにどんな借りがあったというのか
もしかしたらこの,心理的負担のことなんじゃないか.

それに対して,まさに,シャーロックは "I am you" と言う.
それこそ正に,モリアーティの聞きたかった言葉.
だから,ありがとう,と言って物語を締めくくろうとするんではないだろうか.


そう考えると,急に,モリアーティがウェットな人間になる.
そもそも,シャーロックに思い入れてしまった時点で,負け,なのだ.





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sherlock 06

モリアーティに行く前に,シャーロック再び.

ライヘンバッハ・フォールで,モリーはシャーロックに
"You look sad. When you think he can't see you."
と言う.シャーロックは意外そうに,何を言われているのか理解できないような顔をする.
"What could I need from you?"
そのあと
 "Well actually, maybe I ...."
と言いかけるが,モリーに遮られてしまう.

モリーはしかも,それが人前で常に明るく振舞っていた,自分の父親の死ぬ間際に似ているという.

さらに,後になってモリアーティに追い込まれた時に,モリーに助けを求めに現れるのだけど,
"You are right.  I am not Okay."
と言う.


つまり,シャーロックは最初に病院に来た時
(モリアーティが3つのセキュリティーを破って裁判で無罪になり,
 その後221Bに来てシャーロックとさしで話し,
 さらに2か月後,殺し屋が4人近くに移ってきて,
 誘拐事件が起こって,足跡の成分を調べに来た時)
既に,不安を感じていた.
モリアーティが,落ちるぞ,I owe you for a fallと宣戦布告した後の初めての彼による事件.

けれど,不安はジョンには見せられない.
ジョンが心配するだろうとわかっているから,
ジョンは自分を見ていると知っているから.

でもまだ,シャーロックは自分が不安に思っているということに,多分気づいていない.


その後,その嫌な予感はあたって,社会的にもどんどん追い詰められていく.
ジョンに,自分を信じてほしい,と(同じ意味を)叫んでしまうほどに.
ジョンが微塵も疑わないのを見て,どんなにかありがたいと思ったことか.

警察に追われる身になり,
リチャード・ブルックに扮したモリアーティに出会った後,
もうモリアーティの筋書きにのって自分の死で物語を終わらせるしかない,と判断し,
それを裏返して出し抜くために,
死の偽装を頼みにモリーのところへ行く.


ここにきてやっと,
自分がいかに誰かを信じてしまっていること,甘えていること,
誰かが,世間の誰がなんと言おうと,自分を信じてくれていること,
本当に困った時に,自分を助けようとしてくれるということ,
その居心地の良さに慣れてしまっていることに気付いたんだろう.

"I've always trusted you."
というのは,ある意味,一人の人間に対する最大の賛辞だ.



だからこそ,シャーロックは,最後のモリアーティとの対決の時,
ほかの3人(モリーは入っていないけれど)を見殺しにできない.
これがモリアーティなら,そもそもこのような取引自体が成立しないだろうから.




sherlock 05

もう一つ,アイリーン・アドラーの件.
最後にシャーロックはアイリーン・アドラーの携帯を欲しがります.
それも,結構熱心に「お願い」してまで.
何故に?

因みに,ジョンがそのほかの資料をマイクロフトに返そうと部屋を出てから
もう一度アイリーンとのSMSのやり取りを見返す時の
その携帯は,シャーロック本人の携帯です.
(もともと顕微鏡を覗いている時に机の上に置いてある.
 アイリーンの携帯はズボンの左後ろポケットに入れている.)

さらに,カラチでの救出劇が実際にあったことだとして,
あそこで最後にアイリーンがSMSを打つ携帯は,
前に書いたことにより,例の問題の携帯とは別の携帯のはず.
(あぁーん,の着信音が登録されている番号の携帯.)

アイリーン・アドラーの資料となるのは,
当然のことながら,記録媒体となっていた方の携帯でしょう.

となると,やっぱり思い出の品として貰っておきたがったということになるんでしょうか.

アイリーンは死んではいないけれど,
多分もう二度と会うことはない.
特別で心揺さぶられた相手ではあるけれど,
借りは返したし(プールで彼女の電話に命を救われている)
過去のものとして処理された,ってことなのかな.



sherlock 04

アイリーン・アドラー.きれいで官能的で度胸もあって賢い人.

シャーロックにとっての特別な女性.

それを,恋愛感情なのかどうか,という話がある.
が,実はそれは考えなくてもいいんじゃないかなと思っている.
少なくともシャーロックにとって誰でもいい誰かではない,特別な存在であるのは確かだと思う.
それを,恋愛感情と名付けるかどうかは,どちらでもいいことなんではないだろうか.
何をもって恋愛感情と言うか,そもそもよくわからないし,
それは,特別で,しかも少し心揺れるものであったけれど,
それでも自尊心やパズルを解く楽しみに比べて優先される感情ではなかった.
その感情に溺れることをシャーロックが自身に許す程のものではなかったということだろう.


彼女はそもそもの最初に,英国王室にスキャンダラスな写真があると連絡してくるが,
まずはお金は要求しない.
何がしたかったんだろうか.パワーゲーム.
シャーロックは,お金を要求しているのだったら払えばいいと素気無く依頼を断るが,
パワーゲームとなった瞬間急にやる気を出す.
これはもちろん,全てモリアーティの企みだろう.
ネタは持っていてもどう扱っていいかわからずにいたアイリーンに,
どうやってそれを使ってシャーロックと遊べるか,
最終的にゲームに勝てばアイリーンにお金が入るようにできるか,
の知恵を授ける.

何故シャーロックが最後の最後に携帯の解除コードを解けたのか.
それは,彼女がモリアーティの名前を出したからではないだろうか.
それまでシャーロックは,全てアイリーン・アドラーが考えたことなのだと思っていた.
けれど,モリアーティが絡んでいるなら,ことは違う.
企まれたもろもろのストーリー
(パワーゲームを始め,死体を偽装して携帯を一度シャーロックに送り付け,
 シャーロックの気持ちを弄びつつ,シャーロックにBond Airの謎を解かせる.
 それを強請のネタにして,アイリーンに多額の金と身柄の安全を与える)
の骨格は,アイリーンではなくモリアーティによって描かれたもの.
アイリーンが設定する部分は,もっと情緒的で官能的な部分,そういう人物なのではないか.
そういう人物,金庫の暗号に自分のスリーサイズを使うような女性,であれば,
命そのものといいきる携帯の解除コードにも,ドライな暗号にはしきれずに,
つい意味を持たせたくなってしまうのではないか.
そう考えて,暗号にたどり着いたのではないかな,とか.


ところで,モリアーティはBond Airのパズルは解けなかったんだろうか.
やはりシャーロックと並ぶ頭の回転の速さでも,適正が違っているということなのだろうか.
あの,モリアーティが空に向かってぶぶーとSMSを飛ばすところは大好きなシーン.


さらに一つ疑問が.
シャーロックが携帯を預かっている間,死んだと思われていたアイリーンが生きていると判明する.
(アイリーンがシャーロックにSMSを送る.)
そして,新年,シャーロックからの唯一のSMS,Happy New Yearが送られる,
のだけど,そのやり取りをしたアイリーンの携帯ってなんなのだろう?
寧ろ,データの入っている携帯は,携帯と言いつつ,データ保存装置に過ぎなくて,
基本的には常に別の携帯番号を使っていた,ということなのだろうか.


まぁつつき出したらきりがないところは沢山ある訳だけど.




sherlock 03

シャーロックのこと.

シャーロックは社会不適合ということになっているけれど,
私からすると,それほど不適合に思えないのは,
お話の中の登場人物として捉えているからなのかな.

シャーロックのどこが好きって,あの色の薄い眼.
あれは文句なしにぐっとくる.
色が薄いと,何か普通じゃない感じがして,どきどきする.


今回のシャーロックは理不尽に神がかったりはしていなくて,
きちんと情報を集め,脳の中で情報と情報を繋げるストーリーを組み立てる.
だから,たまに間違えたりもするし,間違えれば悔しがる.
弱みもあって,そこを指摘されれば拗ねたりもする.
プライドは高く,頭も頗るいいけれど,完璧ではない人間.
そして,多分育ちがよくて,紳士的な態度を崩さない.
その人物造形が私はとても好きだ.

シャーロックに自尊心があるのは確実として
相手の心理をどれ程理解しているのか,というのは,視ている側に委ねられた部分だろう.
少なくとも一般的な人よりは,感情を軽視していて,
だから相手の傷つくだろうことを平気で言ってしまったりする.
傷つくということがどういうことなのか,理解できていないんだろう.

ワトスンは,彼がそういう人であるということを受け入れてくれた数少ない一人だ.

多分,ワトスンに出会う前は,受け入れられないことに不満はなかっただろう.
けれど,彼が手放しで称賛を送るので,
その居心地がとてもよくなってしまったんだろう.
受け入れられることの喜びが,守るものを増やすことになって,
結局弱みを作ることになってしまうとしても.
彼らは二人とも,とてもまっすぐな人たちなのだ.

そして,このドラマは,二人の関係が徐々に出来上がっていき,
シャーロックが大切なものを得ていく過程を描いた物語でもある.
(というか,私にとってはそれが主題である.)

シーズン1のepisode 1,study in pinkでは
スーツケースが部屋にあるのに驚くジョンに対して,
自分は殺してないよ,と言う.
疑ってない,と言われると,どうして?そう考えるのが普通だろ?と答える.
それが,シーズン2のepisode 3 になると,
君が世間に詐欺師だって思われるのが嫌なんだ,とジョンが言うと
君は僕が詐欺師なんじゃないかと不安なんだろう?と食って掛かる.
そして,彼の心を確かめる.

ジョンのことを信じてしまい,ジョンにも信じてほしいと思っている.
ジョンの信頼を失うことを,恐れている.


今のところシーズン2まで放映されていて,その最後で,モリアーティと対決する.
彼は,3人の友人(ワトスン,ハドソンさん,レストレード)を人質にとられて,
ビルの屋上から飛び降りる.
飛び降りる直前にモリアーティは自殺し,
モリアーティから狙撃中止の命令を出す選択肢がなくなったことで,
飛び降りざるを得なくなる,
そしてその直前にジョンに電話をし,泣きながらお別れを言う.

ここで,いくつかの疑問がある.
モリアーティとの駆け引きについてはモリアーティの項で別に扱うとして.
結局,この駆け引きはシャーロックの勝ちだ.(まぁ主人公だしね.)
彼はこの事態を予め予想して,自殺偽装を準備する.
だから,ここから落ちても自分は死なないということはわかっているのだ.
にも関わらず,何故涙するのか.
しかも,自分は偽物で,全部今までの推理も自作自演だったなどと言う.
ドラマの流れに沿って視ていると,一瞬死んだのかと思えるので,
死ぬ間際のお別れと見えるのだけれど,でも実は違う.

本人から,自作自演だと言われても,ジョンは信じない.
だって君は初めて会った時,あんなに素晴らしい推理を聞かせてくれたじゃないか.
そんなことは誰にもできない.
君にはできた.
これを聞いたときに,シャーロックが思わず嬉しそうに笑う,
その表情が切なくてぐっとくる.というのは置いておいて.


シャーロックは,人間関係を円滑に進める為の嘘をつかないし,
調査のための偽りは躊躇いなく行うけれど,
大事な人には嘘はつかない.(言わないことは沢山あるけれど.)
これは,ジョンを相手についた,一世一代の嘘だ.

多分電話したのは,
自殺偽装の為に,ジョンをあの場所にとどめておく必要があったからなんだろう.
そして,狙撃手を欺くためには,ジョンにも自分が死んだと思ってもらわなくてはならない.
ジョンは世間を欺き続けられる程,演技しながら生活を送るのに向いていないから.

涙は,本当に,お別れの涙だったのではないか,と思う.
自分は生き続けるとしても,ジョンにはもう二度と会えないかもしれない.
(モリアーティの手下からの狙撃の恐れが消えるまでは会えない.)
ジョン相手に嘘をつくとき,
どうやって嘘をついていいのかわからなかったのではないだろうか.
何か話をしたくて,さようなら,だけでは短すぎて,でも本当のことは言えない.
だから,あんな無理のある話になってしまったのではないか.



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